みなさん、こんにちは!
株式会社白河グループ河野です。
ブランドというものは、感性やセンスだけでつくれるほど甘いものではありません。
むしろ、ブランドが人に浸透するプロセスには、明確な科学的メカニズムがあります。
私はずっと行動変容を専門領域としてきましたが、結局ブランドが育つかどうかは「人が行動を変え、続けたくなる条件を満たしているか」で決まります。感情だけで人は動かない。これは科学的な事実です。
行動科学の研究では、人が行動を起こすために必要な3要素が明確に示されています。
Fogg Behavior Modelで説明されるMotivation(動機)・Ability(実行のしやすさ)・Trigger(きっかけ)の3つです。
このどれかが欠けると、人は動かなくなります。
つまり、どれだけブランドに好感を持っていようが、行動のハードルが高ければ人は平然とスルーします。好きは行動の必要条件ではあっても、決して十分条件ではありません。
さらに行動経済学を見れば、人間は感情や理性よりも「認知負荷の低い選択肢」に流れる傾向が強いことが明らかになっています。人は合理的な消費者ではなく、認知コストを節約する生き物だというのが科学の結論です。
だから、行動の導線がスムーズで、判断に迷う余地のないブランドほど選ばれ続ける。ブランドの好感度より、めんどうじゃないかどうかのほうが圧倒的に影響力が強いのです。
私自身、さまざまな企業の行動データを見てきましたが、継続するブランドには必ず即時の報酬が存在しています。行動心理学では、行動を強化するためには即時の快が欠かせないとされています。
達成感、承認、安心、分かりやすいメリット。
このどれが欠けても人は続かない。長期的メリットだけを提示しても、人間は動きません。脳は短期の快を優先するように設計されているからです。
そして行動変容の研究ではもう一つ重要な事実があります。
人の行動の80%以上は環境要因で決まるということです。
ナッジ理論でも示されている通り、環境に仕掛けがあると、人は意識しなくても行動を選択します。
これはブランディングにおいて非常に重要な視点で、つまりブランドとは環境デザインでもあるということです。UI、価格設計、導線、店舗の空気、通知タイミング、言葉の選び方……
これらはすべて行動を誘発する設計であり、ブランドを構成する重要な要素です。
こうした科学的裏付けを踏まえると、ブランドとは単なる世界観づくりではなく、人間の行動特性に適合した行動の仕組みそのものだと言えます。
ブランドが強くなるのは、世界観が魅力的だからではなく、その世界観が「行動に意味を与える役割」を果たすときです。物語は飾りではなく、反復行動を支える理解のフレームなのです。
行動が自動化されるブランドには、ある共通点があります。
ユーザーが「選んでいる」という意識すら薄れていくことです。これは行動科学で言う習慣のループが成立している状態で、
- トリガー
- 行動
- 報酬
- 意味付け
この循環が無理なくまわり続けると、ブランドは無意識レベルに沈み込み、比較されない存在になります。競合分析よりも、この無意識の設計のほうが圧倒的に重要です。
私はブランドづくりに関わる時、まず「変えてほしい行動を1つ」に絞ります。これは行動変容の基本で、ターゲット行動が曖昧なプロジェクトほど失敗します。
次に、その行動を邪魔している摩擦要因を徹底的に分解して取り除いていきます。実行のしやすさを上げ、即時の快を設計し、環境にナッジを仕込み、最後に意味としての世界観を整える。順番を間違えるとブランドは定着しません。
私は、ブランドは感情の芸術ではなく、行動の科学だと思っています。
どれだけ感動的なストーリーや美しいデザインがあっても、人間の行動メカニズムに合致していなければ、必ずどこかで伸び悩みます。
逆に、人が動く仕組みを理解し、それに基づいて設計されたブランドは、静かに、しかし確実に選ばれ続ける存在になります。
結局、未来のブランドが生き残る条件はただ一つです。
「人を動かす仕組みを持っているかどうか」
ここを押さえていないブランドは、どれだけ話題になっても長くは持ちません。
行動変容を理解しているかどうかが、ブランドの寿命を決める時代になっています。
株式会社白河グループ代表取締役 河野牧人